



御霊前にお札を入れるとき、向きに迷った経験はありませんか。結論からお伝えすると、お札は「裏向き・下向き」に入れるのが一般的なマナーとされています。ただし、向きには諸説や地域・宗派による違いもあり、過度に神経質になる必要はないとも言われます。本記事では、御霊前のお札の正しい入れ方を、迷ったときの考え方や間違いに気づいたときの対処法まで含めて、丁寧にご紹介します。
この記事でわかること
御霊前にお金を包む際には、お札の向きにひとつの基本があります。ここでは基本マナーを押さえたうえで、その背景や複数枚の場合の注意点、そして「向きを間違えたと気づいたとき」までを解説します。
御霊前に入れるお札は、肖像画(人物の顔)が印刷された面を「表」と呼びます。この表面が香典袋の裏側を向くように、さらに肖像画が袋の底側に来るように入れるのが一般的とされています。
つまり、香典袋の表面からお札を取り出したとき、最初に見えるのはお札の裏面で、肖像画は下を向いた状態になります。複数の葬儀社・専門サイトでも、この「裏・下向き」が広く共通の作法として紹介されています。
具体的な手順としては、まず香典袋の表面を自分に向けて置き、お札の肖像画を自分と反対側(裏向き)にし、肖像画が袋の底に来るよう下向きにして入れます。この「裏向き・下向き」を覚えておけば、多くの場面で迷わず対応できます。
お札を裏向き・下向きに入れる作法には、いくつかの意味があるとされています。一つは「悲しみに顔を伏せる」という解釈で、肖像画の顔を伏せることで故人を悼む気持ちを表すというものです。もう一つは「遺族が金額を確認しやすい」という実用的な配慮で、裏面(金額が大きく記載された面)が上に来ることで、受け取った側がすぐに金額を把握できるという考え方です。
一方で、お札の向きについては「諸説あり、特に気にしすぎる必要はない」とする見方もあります。葬儀社によって細部の説明が分かれることもあり、地域や宗派によって扱いが異なる場合もあります(※宗派・地域により異なる場合があります)。大切なのは形式を完璧にすることよりも、故人を偲びご遺族を気遣う気持ちです。
監修者で1級葬祭ディレクターの千葉龍一氏によれば、実務の現場では、お札の向きについて参列者から質問を受けることはそれほど多くないといいます。尋ねられた際には「裏向き・下向きが一般的です」と案内し、「葬儀はあってほしくない出来事なので、悲しみから顔を伏せるように下向きにする」と伝えているとのことです。実際には、向きが違っていたことで問題になることはほとんどないとされ、向きを気にしすぎるより、丁寧に包んで弔意を届けることのほうが大切だと案内しているそうです。
香典に複数枚のお札を入れる場合は、すべてのお札の向きを揃えることが基本とされています。たとえば1万円札を3枚入れるなら、3枚すべてが同じ方向を向いているのが望ましい形です。連名で香典を集めた場合も同様で、複数人から預かったお金をまとめて入れるときも、一枚ずつ向きを確認しましょう。
千葉氏も、複数枚を包む場合はすべて同じ向きにそろえるよう案内しているといいます。故人への敬意を表すとともに、受付後にご遺族が確認・整理しやすくするための心遣いでもあるとのことです。なお、形式を気にするあまりお札を入れ忘れてしまう例も見られるため、包んだ後に中身を確認しておくと安心です。
準備の途中や受付の直前で「向きを間違えたかもしれない」と気づくこともあります。葬儀や法要の前であれば、人目につかない場所で静かに入れ直すのがよいとされています。すでに受付に並んでいる、あるいは渡す直前といった場面では、慌てて人前で開封し直すとかえって目立つため、そのままお渡ししても差し支えないと考えられています。
お渡しした後で気づいた場合は、改めて連絡やお詫びをする必要は基本的にありません。ご遺族にかえって気を遣わせてしまうためです。向きはあくまで弔意を示すための作法であり、間違いに気づいても落ち着いて対応することが大切です。
千葉氏によれば、受付の直前に向きを心配される方には、その場で開け直すより、そのままお渡しいただくよう声をかけているといいます。それでも気にされる方には「香典は昔、食材などを持ち寄ってご遺族を支えた風習がお金を包む形へ変わったものです。向きが違っていても、お気持ちまで変わるものではありません」と伝えることもあるそうです。受付では多くの方が続けて訪れるため、人前で慌てて入れ直すとかえって目立ってしまう——準備段階で気づいたなら静かに入れ直せばよいが、受付直前や渡した後なら過度に気にしなくてよい、というのが現場での案内とのことです。
お札の向きだけでなく、お札そのものにも守りたい作法があります。新札の扱い、枚数の選び方、額面の揃え方の3つです。
| 作法 | 基本とされる扱い | 避けたいこと |
|---|---|---|
| 新札 | 折り目のある旧札。新札しかなければ一度折る | 新札のまま入れる(不幸を予期した印象) |
| 枚数 | 1・3・5枚などの奇数 | 偶数、および「4」「9」 |
| 額面(種類) | 同じ種類で統一(例:3万円=1万円札3枚) | 種類の混在(やむを得ない場合は枚数の作法を優先) |
御霊前には、新札をそのまま入れるのは避けるのが一般的なマナーとされています。新札は「あらかじめ不幸を予期して用意していた」と受け取られる可能性があるためです。突然の訃報に対し、手元のお金を包むという姿勢が大切と考えられています。
適度に使用感のあるお札を選び、汚れやシワがひどいものは避けましょう。どうしても新札しかない場合は、真ん中で一度折って折り目をつけてから入れると、「新札をそのまま入れた」という印象を避けられます。なお、結婚式などの慶事では新札がマナーとされ、弔事と慶事で作法が逆になる点に注意が必要です。
香典に入れるお札の枚数にも、避けたほうがよいとされる数字があります。偶数枚は「割り切れる」ことから故人との縁が切れることを連想させるとされ、1枚・3枚・5枚などの奇数で包むのが望ましいと言われます。また「4」は「死」、「9」は「苦」を連想させるため避けるのが一般的です。
ただし例外もあり、1万円を千円札10枚で包む場合などは、合計金額が適切であれば枚数にこだわりすぎる必要はないとされています。
香典に入れるお札は、できるだけ同じ種類で揃えるのが望ましいとされています。たとえば3万円なら1万円札3枚で揃えると、受け取ったご遺族が確認・整理しやすくなります。金額の調整でやむを得ず種類が混ざる場合は、枚数のマナー(偶数を避ける等)が優先されると考えられています。
包む金額そのものの相場や避けるべき金額については、香典の金額相場と正しい書き方、および香典で包んではいけない金額もあわせてご覧ください。
お札の準備ができたら、次は香典袋への入れ方です。香典袋には中袋があるタイプとないタイプがあり、それぞれの入れ方と外袋の折り方を確認しましょう。
中袋とは、香典袋の内側に入っている白い封筒のことです。中袋の表面を自分に向けて持ち、お札の肖像画が中袋の裏側を向き、かつ下に来るように入れます。中袋の表面には金額、裏面には住所と氏名を記入すると、ご遺族が後から確認しやすくなります。
中袋はのりやシールで封をしないのが一般的とされています。ご遺族が中身を確認する際の手間を減らすためで、口は折り返すだけで十分とされます。
香典袋によっては中袋がないものもありますが、その場合もマナー違反にはなりません。地域によっては「袋が二重になると不幸が重なる」という考えから、あえて中袋を使わないこともあるとされています(※地域により異なる場合があります)。
中袋がない場合は、外袋に直接お札を入れます。向きは中袋がある場合と同じく、肖像画を裏向き・下向きにします。金額・住所・氏名は外袋の裏面に直接記入しましょう。
外袋の折り方にも弔事ならではのルールがあります。一般的には、左・右をかぶせ、下側を折り上げてから、最後に上側をかぶせる順とされます。上側のフラップが一番外側に来る形が弔事の折り方で、「悲しみの涙を受け流す」という意味があるとされています。慶事では下側が最後にかぶさるため、逆になる点に注意しましょう(※細部の作法は地域により異なる場合があります)。
| 順番 | 折る場所 | ポイント |
|---|---|---|
| 1・2 | 左 → 右 | 左右のフラップを順にかぶせる |
| 3 | 下を折り上げる | 先に下側を上へ |
| 4(最後) | 上を最後にかぶせる | 上が一番外側=弔事の形(慶事は逆) |
香典袋には、お金の入れ方だけでなく表書きや金額の書き方にもルールがあります。宗教・宗派によって表書きが異なる点と、金額に大字(旧字体)を用いる点を押さえましょう。
香典袋の表書きは、故人の宗教・宗派によって異なります。仏式では四十九日前が「御霊前」、四十九日後が「御仏前」とされるのが一般的です。ただし浄土真宗では「亡くなるとすぐに仏になる」という教えから、四十九日前であっても「御霊前」を使わず、最初から「御仏前」とするのが正式とされています。
宗派がわからない場合は「御霊前」が比較的広く使えるとされますが、浄土真宗では適さないため、判明した場合は「御仏前」に改めます。神式は「御玉串料」「御榊料」、キリスト教は「御花料」などが用いられます。表書きは薄墨の筆ペンで書くのが正式なマナーとされています。
香典袋に金額を記入する際は、改ざんを防ぐ目的で旧字体の漢数字(大字)を用いるのが一般的です。たとえば1万円は「金壱萬圓」、3万円は「金参萬圓」、5千円は「金伍仟圓」と記します。頭に「金」、末尾に「圓」を付けるのが正式とされ、「也」は近年省略されることが多いようです。中袋の表面中央に金額、裏面左下に住所・氏名を記入しましょう。金額相場や書き方の詳細は香典の金額相場と正しい書き方もご参照ください。
香典の準備ができたら、最後は渡し方です。袱紗(ふくさ)の使い方、受付での作法、参列できない場合の郵送方法を確認しておきましょう。
香典袋はそのままカバンに入れず、袱紗に包んで持参するのが望ましいとされています。弔事用は紺・深緑・グレー・紫など寒色系を選びます(紫は慶弔兼用)。弔事では「左開き」になるよう、袱紗をひし形に広げ、中央よりやや右に香典袋を置き、右・下・上の順に折り、左側を最後にかぶせます。挟むだけの金封袱紗も急な弔問に便利です。
受付では記帳を済ませてから、袱紗を開いて香典袋を取り出します。相手から文字が読める向きに回し、両手で差し出します。「このたびはご愁傷さまでございます」など、控えめで簡潔なお悔やみの言葉を添えましょう。
千葉氏によれば、受付の現場で実際によく見かけるのは、お札の向きよりも、知人同士が受付付近で話し込んで声が大きくなったり、受付の流れが止まってしまったりする場面だといいます。お悔やみの言葉と香典をお渡しした後は、周囲へ配慮して式場へ進むと全体がスムーズになり、その小さな心配りがご遺族や他の参列者への配慮にもつながるとのことです。また、受付をスムーズに進めるには配置も大切で、近年一般的になった記帳は受付とは別に記帳台を設けると受け渡しと記帳が分かれて円滑になり、人数に余裕があれば香典を預かる係と記帳を案内する係を分けるとさらに進みやすい、と実務の工夫を挙げています。
参列できない場合、香典は現金書留で郵送します(普通郵便では現金を送れません)。香典袋にお札を入れて表書きをし、お悔やみの手紙を添えて現金書留専用封筒に入れます。郵送は葬儀後1週間〜1ヶ月以内を目安に、喪主の自宅宛てが一般的とされています。
Q. 御霊前のお札の向きを間違えると失礼になりますか?
A. 結論から言うと、過度に心配する必要はないとされています。向きには諸説や地域差があり、基本の「裏向き・下向き」で包めば失礼にあたりにくいと考えられています。監修者の千葉龍一氏も、実務では向きの違いが問題になることはほとんどないとしています。
Q. 中袋なしの香典袋でも、お札の向きは同じですか?
A. 結論から言うと、同じです。中袋がない場合も外袋に直接、肖像画が裏向き・下向きになるように入れます。中袋の有無で向きの作法は変わりません。
Q. 新札しか手元にない場合はどうすればよいですか?
A. 結論から言うと、一度真ん中で折り目をつけてから入れれば問題ないとされています。新札は「不幸を予期して用意していた」と受け取られる可能性があるため、折り目をつけて使用感を出すのが一般的なマナーです。
この記事の監修者
千葉龍一(厚生労働省認定 技能審査 1級葬祭ディレクター)
葬祭業務に13年以上従事し、事前相談から打合せ・施行まで累計1,000件以上をサポート。一般葬・家族葬を中心に、ご家族の意向と地域の慣習を尊重した葬儀運営を行う。
御霊前のお札は「裏向き・下向き」に入れるのが一般的なマナーとされ、肖像画が袋の裏側かつ底側に来るように包みます。複数枚のときは向きを揃えましょう。向きには諸説や地域差もあるため、基本を押さえたうえで、迷ったり間違いに気づいたりしても落ち着いて対応すれば問題にはなりにくいとされています。新札は避け、枚数や額面の作法にも配慮し、袱紗に包んで受付で丁寧にお渡しします。形式以上に、故人を偲びご遺族を気遣う気持ちが何より大切です。