



香典を辞退しようと決めたものの、「どう書けば失礼にならないのか」「当日それでも持ってこられたらどうするのか」で止まっていませんか。香典辞退は家族葬に限らず、一般葬でも社葬でも選ばれています。伝える場所は訃報の連絡・案内状・当日の受付の3か所で、そこに「どこまで辞退するのか」を書き分けて伝えるのが基本です。この記事では、喪主が使える例文から受付での対応、費用への影響、参列する側のマナーまでを順に解説します。
この記事でわかること
香典辞退は、伝える場所を3か所そろえ、辞退する範囲をはっきり書き分けることで、当日の行き違いをほとんど防げるとされています。
香典辞退でつまずくのは、文面の巧拙よりも「伝わっていなかった」「どこまで辞退なのか分からなかった」という2点です。逆に言えば、この2点さえ押さえておけば、あとは相手に合わせて言葉を整えるだけで済みます。
1. 伝える場所は3か所
訃報の連絡(電話・LINE)、案内状や会葬のご案内、当日の受付の掲示。この3か所で同じ内容を重ねて伝えます。当日の受付だけで伝えると、すでに香典を用意して来られた方が引くに引けなくなり、受付で押し問答になりやすいためです。最初の訃報の連絡で口頭で伝え、案内状で文書として残し、当日の掲示で念押しする、という順番が基本とされています。
2. 辞退する範囲を書き分ける
「香典だけを辞退するのか」「供花・供物・弔電も含めて辞退するのか」で、参列者が取るべき行動はまったく変わります。ここが曖昧だと、参列する側は「花なら送ってよいのか」を判断できず、結局個別に問い合わせることになります。香典のみ辞退する場合は「御香典は辞退いたします」と対象を限定し、すべて辞退する場合は「ご厚志の儀は固くご辞退申し上げます」のように包括的に書くのが一般的です。
3. 決めるのは葬儀の形式より先
香典を受けるかどうかは、返礼品の手配数や受付係の人数、当日の進行にも関わります。訃報の連絡を始める前に、ご自身とご家族のあいだで方針をそろえておくと、後から対応が食い違うことを防げます。
具体的な文例は次の章にまとめています。※香典の扱いは地域・宗派により大きく異なります。地域によっては香典辞退そのものがまれな場合もあるため、迷う場合は葬儀社に地域の状況を確認しておくと確実です。
香典辞退の文面は、「どこに書くか(媒体)」と「誰に伝えるか(相手)」の2つの軸で考えると、同じ文章を使い回さずに済みます。
まず媒体別に3か所の書き方を示し、そのあとで相手別の言い回しを整理します。最後に、辞退する範囲の書き分け方をまとめます。
① 訃報の連絡(電話・LINE)
もっとも早い段階の連絡です。長い文面にはせず、香典を辞退することだけを短く添えます。電話の場合は、日時・場所を伝えたあとに一言添える形が自然です。
例文|電話で伝えるとき
父〇〇が〇月〇日に永眠いたしました。通夜は〇月〇日午後6時から、葬儀は翌〇日午前10時から、〇〇斎場にて執り行います。なお、故人の遺志により、御香典は辞退させていただきます。何卒ご了承くださいませ。
例文|LINE・メールで伝えるとき
父〇〇が〇月〇日に永眠いたしました。
通夜 〇月〇日(〇)18時〜 〇〇斎場
葬儀 〇月〇日(〇)10時〜 〇〇斎場
誠に勝手ながら、故人の遺志により御香典は辞退させていただきます。
取り急ぎ、ご連絡まで申し上げます。
② 案内状・会葬のご案内
文書として残る形です。ここがもっとも正式な通知になるため、辞退する範囲をはっきり書きます。句読点を使わない伝統的な書式にする場合もありますが、読みやすさを優先して差し支えないとされています。
例文|案内状・会葬のご案内
謹啓 父〇〇儀 かねてより療養中のところ 〇月〇日 〇歳にて永眠いたしました
ここに生前のご厚誼を深謝し 謹んでご通知申し上げます
なお 誠に勝手ながら 故人の遺志により御香典・御供物の儀は固くご辞退申し上げます
何卒ご賢察のうえ ご了承賜りますようお願い申し上げます 謹白
③ 当日の受付の掲示
受付に立てる紙の掲示です。長い文章は読まれないため、一目で分かる短さにします。
例文|当日の受付に出す掲示
誠に勝手ながら
御香典は辞退させていただいております
皆様のお気持ちのみ ありがたく頂戴いたします
喪主 〇〇〇〇
掲示の実物の作り方と置き場所は、次の章で詳しく扱います。
同じ内容でも、相手によって受け取り方は変わります。特に親族と会社は、事前に一言添えておくかどうかで当日の混乱が大きく変わる相手です。
親族へ
親族は、香典を出す側であると同時に、葬儀を支える側でもあります。「勝手に決めた」と受け取られないよう、理由を短く添えて相談の形にすると角が立ちにくくなります。
例文|親族へ
今回の葬儀ですが、参列してくださる皆さんに負担をかけたくないという父の意向もあり、御香典は辞退させていただこうと考えています。もし何かご意見があれば聞かせてください。
友人・知人へ
かしこまりすぎず、辞退の事実だけを簡潔に伝えます。「お気持ちだけありがたく」と添えると、相手が手ぶらで来ることへの気兼ねを減らせます。
例文|友人・知人へ
このたびは〇〇の葬儀にお心を寄せていただき、ありがとうございます。誠に勝手ながら御香典は辞退させていただいておりますので、どうぞお気遣いなくお越しください。お気持ちだけ、ありがたく頂戴いたします。
会社・職場へ
もっとも早く伝えるべき相手です。職場では「部署一同」で香典を取りまとめる慣行が残っていることがあり、動き出してからでは止めにくくなります。
例文|会社・職場へ(忌引の連絡とあわせて)
私事で恐れ入りますが、〇月〇日に父が永眠いたしました。〇月〇日から〇日まで忌引をいただきたく、お願い申し上げます。
なお、誠に勝手ながら御香典は辞退申し上げます。部署の皆様にも、その旨をお伝えいただけますと幸いです。
香典そのものの作法については家族葬の香典マナー、家族葬の全体像については家族葬とはもあわせてご確認ください。
案内文でもっとも読み違えられやすいのが、辞退の範囲です。「香典辞退」とだけ書かれていると、参列する側は供花や弔電まで控えるべきか判断できません。
実際には、香典だけを辞退して供花・供物は受けるという形が選ばれることも多くあります。祭壇が寂しくならず、弔意を示したい方の気持ちの行き場も残るためです。一方、返礼の手配を最小限にしたい場合は、すべてを辞退する形になります。どちらを選ぶにせよ、案内文の一文で決まります。
| 辞退する範囲 | 案内文の書き方 | 参列者はどうすればよいか |
|---|---|---|
| 香典のみ辞退 (供花・供物は受ける) | 「御香典は辞退させていただきます」と対象を限定して書く | 香典は持参しない。供花・供物は喪主または葬儀社へ確認のうえ手配できる |
| 香典・供花・供物とも辞退 | 「ご厚志の儀は固くご辞退申し上げます」と包括的に書く | 手ぶらで参列してよい。弔意は記帳や弔電、後日の手紙で示す |
| 香典・供花・弔電まですべて辞退 | 「御香典・御供花・弔電の儀は固くご辞退申し上げます」と個別に列挙する | 何も送らない。後日あらためて弔問や手紙で気持ちを伝える形になる |
| 参列そのものも辞退 (近親者のみで行う) | 香典辞退とは別の一文で「誠に勝手ながらご会葬もご遠慮申し上げます」と書く | 参列しない。香典辞退と参列辞退は別の話なので、書き分けがないと参列される |
香典辞退と参列辞退は別のものです。「香典辞退」とだけ伝えて参列辞退を書かなかったために、職場の方が弔問に来られる、という行き違いは起こりやすいところです。近親者のみで行う場合は、必ず別の一文として書き添えてください。※書式や言い回しは地域・宗派により異なります。
当日の受付では、掲示を出すことに加えて「受け取るための物を置かない」ことが、押し問答を減らす実際的な工夫とされています。
監修者で1級葬祭ディレクターの千葉龍一氏によれば、香典を辞退した葬儀では、受付に名刺盆など香典を受けるための物を置かず、A4用紙に「勝手ながら、御香典は辞退いたします」と大きく記載して掲示する形をとっているといいます。受け皿が見えないことで、そもそも差し出す動作が生まれにくくなります。
そのうえで千葉氏は、掲示を出していても持参される方は少なくないとしています。実際に一般の弔問の方はほぼ全員が香典を持参され、受付係がその都度「今回は香典を一切ご遠慮しております」と説明していた例もあったとのことです。掲示だけで完全に止まると考えず、説明する場面が必ずあるという前提で備えておくほうが現実的です。
そのため千葉氏は、掲示の文言以上に受付係を誰にお願いするかが重要だとしています。地域の事情を理解していて、参列者へ角が立たないように説明できる方を受付に立てておくと、その場での説明が穏やかに収まりやすいといいます。
また、香典としてではなく「御野菜代」「御身洗い酒代」「お菓子代」など供物代という名目で置いていかれる方や、生花・盛籠を出される方もいるとのことです。名目が変われば辞退の対象外と受け取られることもあるため、どこまでを辞退とするかを受付係と事前に共有しておくと判断がぶれません。
なお千葉氏は、地域によっては葬儀を地域全体で支え、いただいた分はお返しするという意識が強く、香典辞退そのものが非常にまれな場合もあると話しています。辞退の伝え方によっては「今後のお付き合いまで遠慮してほしい」という意味に受け取られかねないため、事前の説明が大切だとしています。※地域・宗派により異なります。
Q. 受付の掲示は、どのくらいの大きさで作ればよいですか?
A. 実務ではA4サイズの用紙に大きく1行で記載し、受付台の正面に置く形がとられています。文字数を増やすほど読まれにくくなるため、「勝手ながら、御香典は辞退いたします」程度の短さが目安とされています。
香典を辞退すると、香典返しの品物代と手間は減りますが、葬儀費用に充てられる収入がなくなるため、自己負担の割合は上がります。
香典は、葬儀費用の一部を参列者が分担する仕組みでもあります。受け取れば返礼品の費用と手配の手間が発生する一方、その差額は葬儀費用の支払いに充てられます。辞退すると、この収入がゼロになります。「香典返しがいらないから負担が軽くなる」とだけ考えていると、支払いの段階で想定と違うと感じることがあります。
| 項目 | 香典を受け取る場合 | 香典を辞退する場合 |
|---|---|---|
| 収入 | 参列者からの香典が入る | なし |
| 支出(返礼) | 香典返しの品物代・送料が発生する | 原則として発生しない |
| 手間 | 芳名と金額の記録、品物の選定と発送の手配が必要 | 記録・手配の作業が大きく減る |
| 葬儀費用の負担 | 香典を充当できる分、自己負担の割合が下がる | 葬儀費用のほぼ全額を遺族が負担する |
| 当日の運営 | 受付での金銭の受け渡しと管理が必要 | 金銭の管理は不要だが、辞退の説明を担う人が必要 |
香典を受け取る場合、返礼にはいわゆる「半返し」の考え方があり、いただいた額の3分の1から半額程度を目安に品物を用意するのが一般的とされています。つまり、受け取った金額がそのまま手元に残るわけではありません。差額のぶんだけ葬儀費用の支払いに充てられる、という関係です。辞退すればこの差額もなくなるため、支払いは全額が遺族の負担になります。
もう一つ見落とされやすいのが、参列者が多いほど、受け取る場合と辞退する場合の差が大きくなるという点です。家族だけで見送る小規模な葬儀であれば、もともと香典の総額が小さいため、辞退による差はそれほど大きくなりません。一方、職場や地域の方を含めて多くの参列がある葬儀では、辞退によって生じる差額は無視できない大きさになります。「家族葬にしたから費用が抑えられる」と考えていても、参列者が減った分だけ香典も減るため、手元から出る金額はかえって増えることがあります。
また、香典を辞退しても、会葬御礼の品や通夜振る舞いの料理、式場の使用料といった費用は変わりません。減るのは香典返しの品物代と、その手配にかかる手間です。「辞退すれば返礼の費用がまるごと浮く」という理解は、実際の収支とずれています。
金額の一覧は本記事では示しません。参列者数・地域・葬儀の規模で幅が大きく、出所のある数字として示せないためです。葬儀費用そのものの目安は葬儀費用の相場は96.7万円で解説しています。
なお、香典を辞退したからといって香典返しの費用がまったくかからないとは限りません。辞退を伝えたうえでも受け取ることになった分については、後日の返礼を検討する場面が出てきます。その扱いは次の章で説明します。
Q. 家族葬にすれば費用は必ず安くなりますか?
A. 葬儀の規模が小さくなる分、施行の費用は下がる傾向があるとされています。ただし参列者が減れば香典も減るため、遺族の自己負担の割合はかえって上がることがあります。総額ではなく「手元からいくら出るか」で比較しておくと判断しやすくなります。
辞退を伝えていても香典が届くことはあります。受け取るのか返すのかを、ご家族のあいだで先に決めておくことが最大の備えとされています。
千葉氏によれば、香典辞退を事前に伝えている場合、事情を承知したうえで置いていかれた香典については、原則として返礼品を用意しない扱いとしているといいます。辞退を告知している以上、受け取った分にだけ返礼を用意すると、かえって扱いが不揃いになるためです。
後日、現金書留などで届いた場合も同様の扱いですが、辞退を知らずに送られた可能性があるため、まず送り主へ連絡するとのことです。遠方の方には電話で、近隣の方には可能であれば直接お会いし、香典を辞退していること、返礼品も用意していないことを説明したうえで、返却する旨を伝えるよう案内しているといいます。黙って受け取ることも、黙って送り返すことも避け、必ず一度連絡を入れるという順序です。
受付係への伝え方については、事前の打合せで事情を共有し、詳しい理由までは説明せず「今回は御香典を辞退しており、お返しも用意していないため、お受け取りできません」と伝えてもらう形をとっているとのことです。理由を長く語るほど押し問答が長引くため、断る根拠を短く1つに絞るのが実務的な形といえます。強く差し出される場面もあるため、ここでも地域の事情に詳しく、参列者から信頼されている方を受付に立てることが重要だと千葉氏は話しています。
さらに千葉氏は、ご家族の中で対応が分かれないよう、香典辞退の方針と返却方法をあらかじめ共有しておくことの大切さを挙げています。喪主以外のご家族が香典を受け取ってしまう場面もあるため、「その場では受け取らない」「誤って受け取った場合は返却する」といった対応を統一しておくと、混乱を防ぎやすくなるとのことです。
その場でできること
受付でどうしても引き下がっていただけない場合、長く押し問答を続けると、周囲の参列者にも気まずさが伝わります。実務では、断る言葉を2回まで伝えて、それでも差し出される場合は一度お預かりする、という線引きを決めておく方法がとられます。大切なのは、受け取るかどうかよりも「受け取った場合にどうするか」を先に決めておくことです。
その際、受け取った香典は必ず通常の芳名帳とは分けて記録します。辞退した葬儀では香典を受け取る前提の記録体制が整っていないため、後から「誰から、いくら」が分からなくなりやすいためです。氏名・住所・金額に加えて、当日受け取ったのか後日届いたのかも控えておくと、返却するか返礼するかを判断しやすくなります。
返却する場合の送り方
返却すると決めた場合、現金をそのまま普通郵便で送ることはできません。現金書留を使い、辞退している旨とお礼を記した手紙を必ず添えます。手紙がないまま現金だけが返ってくると、厚意を拒まれたと受け取られかねないためです。「お心遣いを賜り、誠にありがとうございました。誠に勝手ながら御香典は辞退しておりますので、失礼を承知でお返し申し上げます」といった一文を添えます。
なお、四十九日を過ぎてから届いた場合も扱いは同じです。時間が経つほど返却しにくくなるため、届いた時点で早めに連絡することが、結果として双方の負担を減らします。
受け取ることになった場合の流れ
香典返しを行う場合の時期は香典返しはいつ?で解説しています。※返礼の要否・時期は地域・宗派により異なります。
会社関係でつまずきやすいのは、「部署一同」の取りまとめと、参列辞退の伝え漏れ、そして会社から出る慶弔見舞金の3点です。
① 「部署一同」の取りまとめは、動き出す前に止める
職場によっては、訃報を聞いた時点で有志や部署単位で香典を取りまとめる慣行が残っています。集め始めてから辞退を伝えると、集めた側が引くに引けなくなり、かえって気まずくなります。忌引の連絡と同じタイミングで、辞退の一文を必ず添えてください。
誠に勝手ながら、御香典は辞退申し上げます。部署の皆様にも、その旨をお伝えいただけますと幸いです。
伝える相手は、直属の上司に加えて、総務や庶務など弔事の取りまとめを担当する部署にも届くようにしておくと確実です。口頭だけでなくメールなど文書の形でも残しておくと、部署内での行き違いを防ぎやすくなります。
② 香典辞退と参列辞退は別のもの
「香典は辞退します」とだけ伝えると、参列は歓迎されていると受け取られます。近親者のみで行う場合は、香典辞退とは別に「誠に勝手ながら、ご会葬もご遠慮申し上げます」と明確に書き添えてください。この一文がないために職場の方が斎場に来られてしまう、という行き違いは実際に起こります。
③ 会社から出る慶弔見舞金は香典とは別のもの
社員本人や家族に不幸があった際、会社の規程にもとづいて支給される慶弔見舞金・弔慰金があります。これは参列者個人からの香典ではなく、就業規則や福利厚生の制度にもとづく支給です。香典を辞退している場合でも、受け取って差し支えないとされています。返礼も原則として不要とされていますが、後日あらためて上司へ口頭でお礼を伝えておくと丁寧です。
なお、制度の有無・金額・申請方法は会社ごとに大きく異なります。総務担当へ確認してください。
取引先・関係先へ伝えるとき
故人が経営者や役員であった場合、社内だけでなく取引先からも香典や供花が届きます。取引先は社内より情報が伝わるのが遅いため、訃報を出す段階で辞退の一文を必ず入れておきます。特に供花は、届いてから断ることが実質的にできません。供花まで辞退するのであれば、訃報の文面で「御香典・御供花の儀は固くご辞退申し上げます」と明記してください。
会社が施主となる社葬・合同葬の場合は、香典の扱いを決めるのは遺族ではなく会社側になります。個人の葬儀を別に行う場合は、社葬と個人の葬儀とで香典の扱いが異なることを、案内の中で分けて伝えておくと混乱を防げます。
Q. 上司や同僚が個人的に香典を持ってきた場合はどうすればよいですか?
A. 実務では、受付と同じく「今回は御香典を辞退しております」とお伝えする形が基本とされています。それでも強く差し出される場合に受け取るかどうかは、ご家族で先に方針を決めておくと、その場で判断に迷わずに済みます。
香典辞退は珍しい選択ではなくなってきていますが、「辞退できること自体を知らなかった」という方も一定数いるとされています。
カタログギフト大手のリンベルが2026年1月14日〜28日に実施した調査(同社メルマガ会員352名が回答)では、香典を辞退した経験がある方は26.4%でした。一方、香典を辞退できること自体を知らなかった方は42.3%にのぼっています。辞退した理由は「参列者の負担を軽減したい」が55.2%、「香典返しの手間をなくしたい」が53.6%と続きます(リンベル公式サイトの調査結果より)。
この数字は、回答者が同社のメルマガ会員である点に注意が必要です。全国の平均値ではなく、あくまで一つの調査結果として読んでください。
それでも、香典辞退の動機が「参列者に気を遣わせたくない」「返礼の手間を減らしたい」という遺族側の配慮にあることは、実際の相談内容とも重なります。同時に、4割を超える方が辞退という選択肢自体を知らなかったという結果は、案内文で辞退を伝えても「そんなことができるのか」と戸惑う参列者が一定数いることを意味します。文面を短く分かりやすくしておくこと、当日の受付で説明できる人を立てておくことが、この戸惑いへの備えになります。
なお、葬儀に関する全国規模の調査としては鎌倉新書の「お葬式に関する全国調査」がありますが、2026年に公表された第7回調査(有効回答2,000名)には香典辞退に関する数値は掲載されていません。
香典辞退の案内があった場合は、その言葉どおりに受け取り、香典を持参しないのが基本のマナーとされています。
「本当に手ぶらでよいのか」と不安になる方は少なくありませんが、遺族は返礼の手配を前提にしていません。持参すれば、受付で断る手間と、後日の対応をお願いすることになります。案内を尊重することが、もっとも負担をかけない対応です。
案内文の文言によって、控えるべき範囲が変わります。
| 手段 | 費用の目安 | 「御香典辞退」とある場合 | 「ご厚志辞退」とある場合 |
|---|---|---|---|
| 供花(スタンド花・アレンジ) | 1基 15,000円〜20,000円程度が目安とされる | 喪主または葬儀社へ確認のうえ手配できる | 控える |
| 供物(果物・盛籠など) | 10,000円〜15,000円程度が目安とされる | 同上(宗派により供物の種類が異なる) | 控える |
| 弔電 | 1,000円〜5,000円程度 | 送って差し支えないとされる | 「弔電も辞退」と明記があれば控える |
| お悔やみの手紙 | 実費のみ | いつでも差し支えない | いつでも差し支えない |
| 後日の弔問 | — | 遺族の都合を確認してから | 遺族の都合を確認してから |
判断に迷ったときは、遺族へ直接尋ねるのではなく、葬儀を担当する葬儀社へ問い合わせる方法もあります。遺族の手をわずらわせずに確認できます。
手ぶらへの抵抗が強い場合でも、金銭以外で弔意を示す方法はあります。記帳を丁寧に行う、焼香の際に一礼を添える、後日あらためて手紙を送る、といった形です。金額の大小ではなく、参列して見送ること自体が弔意にあたるとされています。
どうしても何か送りたい場合は、葬儀の当日を避け、四十九日を過ぎた頃に手紙を添えて供物を送る方法もあります。ただし、これも遺族の負担になりうるため、案内に「ご厚志辞退」とある場合は控えるのが無難です。
うっかり持参してしまったとき
香典を用意して行ったものの、受付で辞退の掲示に気づくこともあります。この場合は差し出さず、そのまま持ち帰るのが基本です。「せっかく用意したのだから」と押し切ると、遺族は後日の対応を抱えることになります。記帳を丁寧に行い、「ご愁傷さまでございます」と一礼するだけで、弔意は十分に伝わります。
一度差し出したあとに断られた場合も、重ねてお願いはせず、「失礼いたしました」と引くのが穏当です。断っているのは受付係個人の判断ではなく、遺族が事前に決めた方針です。
辞退の記載がないとき
案内文に香典についての記載がまったくない場合は、辞退していないと考えて通常どおり用意します。家族葬であっても香典を受け取る葬儀は多く、「家族葬=香典辞退」ではありません。判断がつかない場合は、遺族ではなく葬儀を担当する葬儀社へ確認する方法が負担をかけずに済みます。
参列できないとき
遠方などで参列できない場合、辞退の案内があるなら香典を郵送するのは控えます。弔電を送る、後日お悔やみの手紙を送るといった形が適しています。手紙は、時候の挨拶を省いて弔意から書き始め、遺族の体調を気づかう一文で結ぶと、簡潔でも失礼になりません。返信を求める書き方は避けてください。
香典を持参する場合の金額や書き方は香典の金額相場と正しい書き方、お札の入れ方は御霊前のお札の向きは?で解説しています。
葬儀で香典を辞退されていても、その後の法要が同じ扱いとは限りません。葬儀の香典辞退は、その葬儀についての案内であり、法要まで含む意思表示とは限らないためです。
法要に招かれた場合は、あらためて案内文を確認してください。法要の案内に辞退の記載がなければ、御仏前を用意するのが一般的とされています。判断に迷う場合は、施主へ「当日はどのようにさせていただくのがよいでしょうか」と一言確認しておくと、双方が気まずくならずに済みます。
通夜のみ参列する場合の流れはお通夜に焼香だけの流れとマナーもあわせてご確認ください。
香典辞退のトラブルは、断ること自体ではなく「断る言葉が用意できていない」ことから起きるとされています。
千葉氏によれば、受付ではまず「今回は御香典を辞退しております」とお断りしてもらう形をとっているといいます。そのうえで、それでも差し出される場合には、次のように伝えると相手の厚意を否定せずに説明できるとのことです。
受付でそのまま使える言い方
「今回は御香典を辞退しております」
「本来であれば大変ありがたいことですが、今回は事情があり、お受け取りできません」
「お気持ちだけ、ありがたく頂戴いたします」
前者は断る理由を「事情」の一語に収め、相手の行為そのものを否定しない言い方です。後者は、受け取らないことと感謝を同時に伝えられるため、添えるだけで場が和らぎます。
職場から慣例として取りまとめられそうな場合については、まず上司へ事情を説明したうえで、次のように文書で案内した例があるといいます。
職場の取りまとめを止めたいとき
「誠に勝手ながら、御香典は辞退申し上げます。皆様にもその旨をお伝えください」
千葉氏は、口頭だけでなく文書でも明確に伝えることで、部署内での行き違いを防ぎやすくなるとしています。取りまとめは善意で始まるため、止めるなら早い段階で、記録に残る形で伝えるのが実務的です。
断り方は3段階で用意しておく
その場で言葉を探すと、どうしても長い説明になり、押し問答が伸びます。あらかじめ次の3段階を決めておくと、受付係も判断に迷いません。
理由を長く語らないことが要点です。事情を詳しく説明するほど、相手も反論の余地を探すことになります。
当日までに家族で決めておくこと
トラブルの多くは、当日その場ではなく、決めていなかったことから生まれます。次の4点を、葬儀の前にご家族で確認しておいてください。
特に最後の1点は見落とされがちです。葬儀で辞退したことが、その後の法要まで含む意思表示と受け取られ、法要でも手ぶらで来られるという行き違いが起きます。法要の案内状で、あらためて扱いを明記しておくと防げます。
| 起きやすいこと | なぜ起きるか | 事前にできる対策 |
|---|---|---|
| 受付で押し問答になる | 断る言葉を決めておらず、受付係がその場で考えることになる | 断りの文言を1つに決めて共有し、受け皿になる盆を置かない |
| 家族で対応が食い違う | 喪主以外の家族が受け取ってしまう | 「受け取らない」「誤って受け取ったら返却する」まで方針を統一しておく |
| 職場が香典を取りまとめる | 慣例が残っていて、訃報を聞いた時点で動き出す | 忌引の連絡と同時に、文書の形で辞退を伝える |
| 供物代など別の名目で置いていかれる | 香典ではないので辞退の対象外と受け取られる | どこまでを辞退とするかを案内文に書き、受付係とも共有しておく |
| 法要でも手ぶらで来られる | 葬儀の辞退が、その後の法要まで含むと受け取られる | 法要の案内状で、あらためて扱いを明記する |
| 参列そのものを控えられる | 香典辞退が「来ないでほしい」の意味に読まれる | 「どうぞお気遣いなくお越しください」を一文添える |
Q. 香典を辞退するのは失礼にあたりますか?
A. 失礼にはあたらないとされています。参列者の負担を軽くしたい、返礼の手配を最小限にしたいという理由で選ばれる形です。ただし地域によっては香典辞退がまれな場合もあるため、事前に葬儀社へ地域の状況を確認しておくと安心です。
Q. 途中から「やはり受け取る」に変更してもよいですか?
A. 一度辞退を案内したあとに方針を変えると、すでに手ぶらで参列された方との間に不公平が生じます。変更する場合は、案内が届いている範囲の方へ個別に連絡できるかどうかを基準に判断してください。
Q. 親族から香典辞退に反対されたときはどうすればよいですか?
A. 香典は葬儀費用を分担する意味合いも持つため、費用面を心配して反対されることがあります。誰が費用を負担するのかを先に共有したうえで話すと、話が進みやすくなります。親族間だけ従来どおり受け取る形をとることもあります。
Q. 香典を辞退した場合、会葬御礼の品も不要ですか?
A. 会葬御礼は香典への返礼ではなく、参列いただいたことへのお礼として渡すものです。香典を辞退している場合でも用意するのが一般的とされています。
Q. 訃報を家族葬と伝えれば、香典辞退も伝わりますか?
A. 伝わりません。家族葬は葬儀の規模を表す言葉であり、香典の扱いとは別のものです。家族葬でも香典を受け取る葬儀は多いため、辞退する場合は必ず明記してください。
Q. 遠方から参列できない方から香典を送りたいと言われました。
A. 辞退している旨をあらためて伝え、お気持ちだけ頂戴する形にするのが基本です。それでも送りたいという申し出には、お悔やみの手紙をお願いする形にすると、双方が納得しやすくなります。
香典辞退でつまずくのは、文面の巧拙ではなく「伝わっていない」「どこまで辞退か分からない」の2点です。伝える場所は訃報の連絡・案内状・当日の受付の3か所、そして案内文には香典だけなのか供花・供物も含むのかを必ず書き分けてください。
当日は掲示を出していても持参される方がいる前提で、断る言葉を1つ決め、受付係とご家族で共有しておくと落ち着いて対応できます。誤って受け取った場合に返礼するのか返却するのかまで決めておけば、後日の対応で迷うこともありません。
費用の面では、香典返しの品物代と手間が減る一方、葬儀費用に充てられる収入がなくなるため、自己負担の割合は上がります。参列者が多い葬儀ほどこの差は大きくなります。どちらが良いという話ではなく、両面を確かめたうえで、ご自身の葬儀に合う形を選んでください。判断に迷う場合は、地域の慣習を把握している葬儀社に、その地域で香典辞退がどの程度行われているかを尋ねておくと、決めやすくなります。